【GIGAスクール構想下のネットいじめ】その特徴と学校での対策法

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個人でのインターネット利用が当たり前となった現在、多くの子どもたちがスマートフォンなどのデジタル端末でインターネットに触れています。また、文部科学省主導のGIGAスクール構想によって、児童生徒に1人1台の学習端末を整備する取り組みも急速に進み、今後子どもたちがインターネットに触れる機会はさらに増えていくでしょう。
そのような中、インターネット上で行われるいじめ、通称「ネットいじめ」が問題視されています。ネットいじめは従来のいじめとは異なるため、防止するためには今までとは異なる対策を講じる必要があります。
この記事では、ネットいじめとは何なのかといった概要から、その原因や具体例、学校でできる具体的な対策に至るまでを説明していきます。多くの学校関係者の方、および保護者の方に役立つ内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。

「ネットいじめ」とは?

「ネットいじめ」とは、スマートフォンやパソコンを使って、インターネット上で行われるいじめ行為のことです。文部科学省では以下のように定義されています。

「ネット上のいじめ」とは、携帯電話やパソコンを通じて、インターネット上のウェブサイトの掲示版などに、特定の子どもの悪口や誹謗・中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うもの

引用: 「ネット上のいじめ」に関する対応マニュアル・事例集(学校・教員向け)P.9|文部科学省

ネットいじめは増加傾向にある

文部科学省が行った調査の結果、小中校全体で認知されたネットいじめの件数は、2020年までの7年間で一貫して増加傾向にあることがわかりました。

年度件数
平成26年(2014年)7,898件
平成27年(2015年)9,187件
平成28年(2016年)10,779件
平成29年(2017年)12,632件
平成30年(2018年)16,334件
令和元年(2019年)17,924件
令和2年(2020年)18,870件

参照: 令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省

また、同調査によると、いじめの認知件数自体は2020年度で前年比約15%減少していることがわかっています。この減少自体は、コロナウイルス対策に伴う登下校・接触機会の減少も要因として考えられるため、「いじめが減った」と楽観的に捉えることはできないでしょう。
むしろ、いじめの全体数が減っている中でネットいじめの件数が依然として増加傾向にあることから、いじめ行為全体におけるネットいじめの割合は増していると言うことができます。

ネットいじめの原因

ネットいじめがここまで数を増やした主な原因は、子どもたちの間でのインターネットの普及にあります。
総務省が毎年発表している「情報通信白書|インターネットの利用状況」では、2020年時点での6~12歳におけるインターネット利用率は80.7%、13~19歳では96.6%と発表されています。小学校生徒の場合は10人に8人、中学校・高校の場合はほとんど全員がインターネット端末を利用していることになります。

参照: 令和3年版 情報通信白書|インターネットの利用状況|総務省

このような高い普及率の背景には、GIGAスクール構想推進に伴う1人1台端末の整備があるかと思われますが、同白書の2016年データを確認すると、6~12歳で82.6%、13~19歳で98.4%と、ここ5年間でそれほど大幅な変化がないことがわかります。

参照: 平成30年版 情報通信白書|インターネットの利用状況|総務省

このことから、子どもたちの間でのインターネット普及は今に始まったことでなく、長い間ネットいじめの温床になっていたことが窺われます。

 1人1台端末整備で、さらなるネットいじめの深刻化が懸念される

これまで、子どもたちがインターネットに接する機会のほとんどは、自分たちや家族が所有するデジタル端末でした。しかし、2020年から本格的に動き出したGIGAスクール構想に伴い、個々人専用の学習端末でもインターネットにアクセスすることが可能となり、彼らがインターネットに接する機会が大きく増大することが予想されます。
実際、1人1台端末の整備が大きく進んだことで、2021年の「教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数」は1.4人と、前年までの流れから劇的に変化しています。

引用(画像含む): 令和2年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)

これはインターネットの普及率ではなく、インターネットとの「接触率」が増加するということです。このままでは、それに比例してネットいじめの件数も増加していくでしょう。事態がより深刻化する前に、早急な対策が求められます。

ネットいじめは従来のいじめと何が違うか?その特徴と問題点

ネットいじめは、インターネットという仮想空間で行われるため、その特徴が従来のいじめとは大きく異なります。ここでは、具体的な3つの特徴と、それぞれの問題点について確認していきます。

場所や時間に関係なく行われる

ネットいじめは従来のいじめと異なり、加害者と被害者が現実世界で接触する必要がありません。デジタル端末さえあれば、24時間いつでもどこからでもいじめが行われます。そのため、悪質なネットいじめの場合は、深夜帯まで続くこともあります。
従来のいじめであれば、学校から帰れば解放されることができますが、ネットいじめは自宅にいる間も含めて四六時中続き、逃げることができません。そのため、被害者の心が休まる時間が奪われ、より深刻な事態に発展してしまいやすいことが大きな問題点として挙げられます。

教師や親が発見しづらい

従来のいじめは学校内で行われることが多いため、教師が注意を払うことで発見、少なくとも発生を抑制することが可能です。また、教科書などへの落書きなど、いじめの証拠となるものがあれば、過程で親が発見する可能性もあります。
しかし、ネットいじめの場合には、そのように外部から行為や証拠を発見することが非常に困難です。また、周囲の目という抑止力が働かないぶん、従来のいじめより大胆に行われることも多く、周囲が気づかないうちにどんどん状況が悪化してしまうことが懸念されます。

いじめっ子が誰なのかを特定しにくい

従来のいじめの場合、いわゆる「いじめっ子」という加害者が存在することがほとんどです。そのため、加害者からのいじめさえ抑止できれば、いじめを解決することが可能です。
しかし、ネットいじめの場合は掲示板やSNSでいじめが行われるため、誰がいじめっ子なのかを明確に特定することができません。そのため、いじめが発覚した場合であっても、その原因を取り除くことが非常に難しくなってしまいます。

誰でも加害者になる可能性がある

ネットいじめはネット掲示板やSNSのグループで行われるため、多数派の意見に流される「同調圧力」が働きやすく、無自覚のうちにいじめに加担してしまいがちです。それはつまり、クラスなどのグループに属している限り、誰でも加害者になる可能性があるということです。
また、集団で意志決定を行うと、個人の場合よりも極端になりやすい(集団極性化)ため、ネットいじめの場合は内容が特にエスカレートしやすいことも、大きな問題点として挙げられます。

ネットいじめの具体例とは?

ネットいじめはインターネット上で行われるため、従来のいじめとは内容が異なります。ここでは、そのうちの代表的な例を紹介していきます。

誹謗中傷・悪口の書き込み

対象となる児童生徒への誹謗中傷や悪口を、掲示板やSNSに書き込む行為です。
掲示板(通称「裏サイト」)は部外者が入れないようにパスワードが設定されていたり、承認した相手しか閲覧できないSNSアカウント(通称「鍵アカ」)で書き込まれるため、外部からは発見しづらい特徴があります。

動画や写真、個人情報の無断掲載・アップロード

対象者を特定できる実名や住所などの個人情報、写っている写真や動画などをインターネット上に無断で載せる行為です。
匿名掲示板などにアップされるため、誰がやったのかを追跡しにくい点が大きな特徴です。

なりすまし行為

対象者の実名や写真を使って、対象者になりすましてインターネット上で活動する行為です。出会い系サイトに無断で登録したり、対象者の意図しない発言をしたりすることで、周囲からの信用を落とすことを目的として行われます。
無断掲載と同様、なりすました人物を特定しにくいという特徴があります。

SNSでの仲間外れ、締め出し行為

LINEやTwitterなどのSNSにおいて、対象者だけを仲間外れにする行為です。具体的には、対象者を締め出してグループを作成したり、グループ内全員で対象者をブロックしたりなどが挙げられます。
発言や書き込みなどの証拠が残らないので、いじめ行為として発覚しにくいという特徴があります。

ネットいじめを防ぐには?学校ができる対策

前述のように、GIGAスクール構想の推進に伴う端末整備によって、ネットいじめの危険性は今後さらに高まってくることが予想されます。そのため、ネットいじめを早期発見、未然防止するために、これまで以上に学校側での効果的な対策が求められます。
ここでは、代表的な対策方法を2点紹介していきます。

学校ができる対策①:リスク管理ができる環境づくり

いじめを防ぐためには、日ごろから生徒を観察することが必要不可欠です。ネットいじめの場合はインターネット上での観察となりますが、1人1台端末を所持している中、生徒たちのチャットや書き込みなどを人力で追うのは不可能に近いです。
そのため、チャットに不適切なワードが使われたらアラートを出したり、個人情報を含むファイルを自動検出したりといった、人に代わって問題の発見・抑止をするシステムを導入するなど、学校という組織でリスク管理を行うことのできる環境づくりが非常に有効的です。

学校ができる対策②: 被害者生徒が相談しやすい仕組みづくり

いじめが深刻化しやすい原因の1つとして、被害者が教師や親に面と向かって相談しにくいという点が挙げられます。ネットいじめの場合は物的な証拠が示しづらいので、その傾向がさらに顕著です。
そのため、面と向かわずにインターネット上でSOSを出せるような、ITを活用した相談しやすい仕組みをつくることが非常に効果的です。相談への心理的ハードルを下げることで、深刻化する前に潜在的な問題を可視化することが実現します。

ネットいじめは起こる前提で未然に防ぐことが大切!

1人1台端末の整備が進んだ現在では、もはや教育とインターネットを分離することはできません。その結果、インターネット上で行われるいじめ行為は必ずどこかで発生し、それらの根を完全に除去することは困難です。しかし、その芽が成長する前に摘み取ることは可能です。
ネットいじめは、起こることを前提にして未然に防ぐことが重要です。今回ご紹介したことを参考に、ネットいじめで苦しむ児童生徒が少しでも少なくなるよう、積極的な対策を講じていきましょう。