何らかのやむをえない事情によって登校することができない「不登校」の生徒が、年々増え続けています。文部科学省推進のGIGAスクール構想が目指す「1人1台のICT端末」というお題目には、もちろん不登校の生徒たちも含まれます。そのため、ICT教育において不登校生徒たちへの学習支援をどのように行うかが、今後の鍵になってきます。
本記事では、不登校の生徒たちの学びを止めないためにICTがどのように活用できるか、詳しく確認していきます。
不登校の定義とは?
そもそも不登校とは、どういった状態を指す言葉なのでしょうか。
文部科学省では、不登校を以下のように定義しています。
「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」
つまり、不登校とは「何らかのやむをえない事情によって、長期間に渡って登校することができなくなってしまった生徒、およびその状態」だと言うことができます。
不登校生徒が現れ出したのは1960年代頃だと言われていて、長きに渡って教育関係者の頭を悩ませてきました。そのうえ、不登校が近年著しくその数が増えていることをご存知でしょうか。
不登校生徒の数は上昇傾向にある
小中学校における不登校生徒の数は8年連続で増加していて、令和2年度には196,127人(1,000人あたり20.5人)という過去最多を記録しています。その8年前にあたる平成24年度は112,689人(1,000人あたり10.9人)だったので、この8年で約2倍にも膨れ上がったことになります。学校の規模にもよりますが、1学年100人だとしたらその中に2人は不登校の生徒が含まれる計算です。
また、そのうち中学校の割合が特に顕著で、令和2年度の中学校の不登校生徒数は132,777人(1,000人あたり40.9人)と、1学年中4人は不登校の子がいる計算になります。
数値および画像の出典:令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省
不登校生徒の学習支援にはICTの活用が有用
不登校生徒への対応として、スクールカウンセラーや教育支援センター(適応指導教室)、担任教師による対面支援だけでは限界があります。また、不登校の原因によっては無理に登校させることがプラスに働かないことも考えられるため、自宅にいながら教室と同等の学習環境が得られるICT教育が効果的です。
ここでは、不登校支援にICT教育がどのように役立つのか、4つのトピックに分けて具体的に確認していきましょう。
自宅学習でも出席扱いにすることが可能
これまで、不登校の生徒に対してどれだけ手厚くサポートをしても、登校できない生徒に授業と同程度の学習環境を与えることは難しく、本人が学校に来て授業に参加しないことには出席扱いにすることもできませんでした。
しかし、GIGAスクール構想に伴い生徒1人1台のICT端末が普及したことで、学校に登校できない生徒でも、端末を使って自宅から同等の学習効果を得ることができるようになりました。
文部科学省の発表資料でも、端末を用いた自宅学習でも出席扱いにできること、その学習成果を評価に反映できることが明記されています。
小・中学校段階の不登校児童生徒が自宅においてICT 等を活用した学習活動を行う場合、在籍校の校長は、一定の要件を満たす場合に、指導要録上出席扱いとすること、及びその学習成果を評価に反映することができる。
教室での授業のオンライン配信
ノートPCやタブレットなどのICT端末を使うことにより、教室での授業をリアルタイムで不登校生徒にもオンライン配信することが可能です。これを利用すれば、無理に登校させずに教室の授業と同等の学習効果を与えることができます。それにより、生徒の心のケアと学習支援とを、問題として切り離して対処することにも繋がります。
また、一度の授業で通常の生徒と不登校生徒のそれぞれに学習効果を与えられるので、教師の負担を軽減する効果も期待できます。
生徒の学習レベルに合わせた学習支援
不登校が長期化してしまうと、教室登校に戻ることができても学習レベルにギャップが生まれてしまいがちです。その結果、通常の授業についていけず、それが原因でまた不登校に戻ってしまうという事態にも繋がりかねません。
しかし、ICTを活用することで、不登校で学習が遅れてしまった場合でも、生徒の学習レベルに合わせた学習支援を行うことが可能となります。
ここでは、 Google Workspace for Education を活用した学習支援の例をご紹介します。
Google Classroom での授業動画共有
授業をオンライン配信した際、それを YouTube などの動画共有サイトにアップしておくことで、いつでも繰り返し見られる状態にしておくことができます。そのURLを Google Classroom で不登校生徒にも共有しておけば、出席できなかった授業の取りこぼしを自宅学習でも補うことが可能です。もちろん、通常生徒の復習用として活用することもできます。
Google フォームでの小テスト実施
これまでの学校教育では、不登校生徒に向けた支援教材を作成しても、プリントを生徒宅に届けなければならず、その内容を教師が確認したり採点したりといった作業も煩雑になってしまいがちでした。
しかし、Google フォームで作成した小テストであれば、自宅でも教室と同じように取り組むことができるため、プリントを届ける手間がかかりません。また、オンラインで採点し、その結果を不登校生徒にフィードバックすることができるので、教師の負担が少なく、生徒の学習効果もより高まることが期待できます。
学習支援ソフトなどでの学習到達度・進捗状況の把握
これまで、不登校生徒の学習がどの水準に達しているのか、どれくらいのペースで進んでいるのかといった学習到達度・進捗状況を把握するのが非常に困難でした。
しかしICTを活用すれば、学習支援ソフトなどを利用して、生徒宅を訪問したりプリントのやり取りをしたりせずとも、生徒の学習状況をオンラインで拾い上げることが可能となります。また、登校している生徒たちの学習状況と比較し、不登校生徒の学習到達度・進捗状況をデータとして可視化することもできるようになります。
学習支援ソフトは各OSに搭載されたものから、教材会社などが作成したものまで多種多様なものがあり、個々の状況や需要に合わせて選ぶことができます。後者の一部は以下サイトで検索できるので、興味のある方はぜひ確認してみてください。
EdTechサービス:一覧からさがす | 未来の教室 ~learning innovation~
カウンセリングのオンライン化
不登校支援としては従来から、専門のカウンセラーによるスクールカウンセリングが実施されていますが、対面型でのカウンセリングが主流でした。しかし、不登校の生徒にとっては対面で悩みを相談するのはハードルが高く、充分なカウンセリング効果が得られないことも少なくありませんでした。
しかし、ICTを活用すればカウンセリングもオンラインで実施することができるようになります。対面では相談しにくい悩みも、画面越しなら打ち明けやすく、その結果問題が改善に向かいやすくなることが期待されます。
また、端末を使ったチャットによる相談も可能なので、画面越しでも面と向かって話すことに抵抗がある生徒や、声に出して表現するのが苦手な生徒などの悩みにも対応することができます。
重要なのは登校すること自体ではなく、生徒の学びを止めないこと。
学校に通えなくなってしまう生徒の数は年々増え続けていて、令和2年度には全国の小中学校で1,000人に20人以上という過去最多を記録しました。しかし、教育において最重要視されるべきは、生徒たちを登校させること自体ではなく、その学びを止めないようにすることです。
今回ご紹介したことを参考に、不登校生徒たちが取り残されないよう学習支援を進め、いつでも教室に戻ってこられるような環境づくりを進めていきましょう。
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