連載コラム 進化を続けるICT利活用の成功校 田園調布学園の実際 -ICT教育の取り組み- Chromebook の活用 

第14回
「『中等部・高等部』におけるICTの活用 〜教科編〜」

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第1回はこちら
みなさま、こんにちは村山です。

今回のコラムでは、本校における教科の取り組みを一つご紹介できればと思います。みなさまの学校ではどの教科が活発にICTを利活用されていますでしょうか?
各学校、授業を受け持つ先生方のアイデアや利用できる環境によって様々かと思います。もちろん本校においても、全教科が同じ高い熱量・エネルギーでICTを活用している、と自信を持って言い切れませんが、生徒の学習活動において利活用したほうが効果的である!と思えるものについては、率先して利用している状況にあり、やりたいと思った時に実現できる環境は整っている方かと思います。

昨今、教科別のICT活用事例は書籍や媒体で様々に紹介されていますので、本コラム内では、本校で長らく継続して実施しており、特徴的な活用例として数学科の事例を取り上げ、数学科主任の長岡敬佑先生とのインタビュー形式でご紹介します。

関数グラフアートで数学を楽しむ!

関数グラフアートの取り組みのきっかけ

村山先生

村山先生

それでは長岡先生よろしくお願いします。早速ですが、「関数グラフアート」という言葉を初めて聞いた方も多いと思いますが、改めてこれはどのような取り組みなのでしょうか?
長岡先生

長岡先生

簡単に言うと、数学の2次関数を使って絵を描く活動です。本校では2013年度から取り組んでいて、最初は中等部3年生の2次関数の定着を目的に始めました。
村山先生

村山先生

数学の授業で「絵を描く」と聞くと、ちょっと意外性を感じますよね。
長岡先生

長岡先生

この取り組みをはじめた当時、2次関数の定義域や値域の理解が不足していると感じていて、それなら「2次関数のグラフで絵を描こう」という課題を出してみようと考えました。グラフを使うと数学的なルールに基づいて絵を作ることができるのですが、生徒たちは楽しみながら取り組み、関数の特徴を意識するようになったんです。
村山先生

村山先生

ただ単に絵を描くのではなく、数学での学びを活かしながら取り組めるというのは大きいですね。生徒自身が関数を意識したり、使いたくなったりする仕組みが素晴らしいと思いました。

コンテストへの挑戦で広がる可能性

村山先生

村山先生

取り組みを開始した当初は、コンテストなどはなく、冬休みの宿題とされていたんですよね。
長岡先生

長岡先生

そうなんです。生徒の作品が思いの外工夫されていたため、翌2014年度からは、「1次関数、比例、反比例のグラフで絵を描こう」というテーマにして「数学美術館」と題して生徒にも楽しんでもらえるようにし、夏の課題としました。特に工夫されているものは文化祭で実際に展示をしました。前年度の生徒作品に触発されたのか、関数を30〜40個用いてつくる生徒も現れ、感心する反面、関数が正しく対応しているかを教員側でチェックすることが大変でしたね。
村山先生

村山先生

創意工夫した作品が増えるのは嬉しい反面、手書きされた作品をチェックする作業は、とても大変そうですね…!コンテストへの応募はその翌年(2015年度)からでしたでしょうか。
長岡先生

長岡先生

はい、2015年度に福井工業高専が主催するコンテストを知りました。それまでは手描きの作品だったのですが、「デジタルで関数グラフを活用する」という点が魅力的に感じました。
手書き時代手描きで作成されていた時代の作品
村山先生

村山先生

校内展示からコンテスト応募、生徒の反応はいかがでしたか?
長岡先生

長岡先生

競争要素が加わることでモチベーションが上がりましたね。校内選考を通過した作品をコンテストに出品すると伝えると、よりこだわった作品が増えていきました。そして初参加の2015年度には、2名の生徒が全国優秀作品に選ばれたんです。
村山先生

村山先生

初年度にして2作品の入賞、すごいですよね!数学の成績とは関係なく、クリエイティブな面でも評価してもらえるのは魅力的ですね。
長岡先生

長岡先生

そうなんです。普段のテストでは苦戦する生徒でも、関数グラフアートには夢中になって取り組むことがあります。「問題を解く」数学だけでなく、「創る」数学の楽しさを感じてもらえる点が良いですね。

デジタルツールの活用で変わる学び

村山先生

村山先生

その後、手描きからデジタルへと移行したのはどのタイミングですか?
長岡先生

長岡先生

2016年度からですね。フリーのグラフ表示ソフト「Function View」を導入しました。これにより、関数の入力ミスをすぐに確認できるようになり、教師の負担も減りました。
村山先生

村山先生

実際にデジタルツールを導入して、その効果はいかがでしたでしょうか?
長岡先生

長岡先生

この年は、中等部3年生が3名入賞し、中でも「ハンバーガー」(下図)という作品では、中等部3年生時点で未習の円や楕円の方程式が用いられていて、我々教員は驚かされました。デジタルツールの利便性により、様々な関数の入力を試す余裕が生まれたことが大きかったように思います。
「ハンバーガー」「Function View」を使って作成された「ハンバーガー」
長岡先生

長岡先生

デジタルツールを活用することで、まだ習っていない関数(楕円そのものは関数ではありませんが)を目的意識を持って自ら調べ、使ってみるという、生徒の主体的な学習活動に繋げる効果があるものだと感じました。それから2017年度までは、このFunction Viewを使って作成させました。
村山先生

村山先生

そのような作品が登場することによって、周りの生徒達にも何か影響がありましたでしょうか。
長岡先生

長岡先生

2017年にカンファレンスにおける審査会で最優秀賞を頂いた「にじいろギター」では、当時としては異例の100個以上の関数が使用されており、すごい衝撃を受けました。選出作品も含めた学内選考で選ばれた作品は、校内掲示をしたり授業内で紹介をしたりすることで「円や楕円、指数関数は作品づくりに役立ちそう」という認識が広まり、その後の作品で多く用いられるようになります。
村山先生

村山先生

その後、2018年度からオンライングラフ計算機「Desmos」を導入しますが、生徒の作品づくりに変化はありましたでしょうか。
長岡先生

長岡先生

Desmosは関数の本数制限がなく、色塗りや動的な表現も可能なので、作品の幅が一気に広がり、三角関数や指数関数など、より高度な関数を使う生徒が出始めました。例えば2017年度の作品では、指数関数を使ってギターのカーブを表現する生徒がいました。(下図)
「にじいろぎたー」「Desmos」を使って作成された「にじいろギター」
長岡先生

長岡先生

さらには、教科書には載っていないような式やグラフを利用して生徒自ら関数の式の形を調整したり、考え出すところに関数グラフアートが与える、創る楽しさの威力を感じます。

国際コンテストへの挑戦と新たな展開

村山先生

村山先生

2020年度には「Desmos 国際数学アートコンテスト」にも挑戦されていましたよね。
長岡先生

長岡先生

はい。ちょうどDesmo Studioが主催する「第1回Desmos国際グラフアートコンテスト」が開催されることがわかり、作品募集を呼びかけました。コロナ禍で登校できない時期に、生徒が自宅でできる取り組みとして始めました。Desmosの使い方マニュアルを作成して共有したところ、多くの生徒が作品制作に取り組みました。
村山先生

村山先生

国際的な場での評価はいかがでしたか?
長岡先生

長岡先生

世界中から4000点以上の応募があった中で、本校の2作品がファイナリストに選ばれました。日本からの選出はわずか3作品だったので、生徒たちにとっても大きな自信になったと思います。

関数グラフアートの魅力

村山先生

村山先生

この取り組みを続ける中で、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか?
長岡先生

長岡先生

関数グラフアート全国コンテストでは、本校から毎年入賞者が出ており、生徒の活躍に我々教員も大変励まされています。この取り組みでは、成績優秀者ばかりが入賞するというわけでもないため、「問題を解く」以外の数学の力を評価できるところもグラフアートの魅力といえます。生徒の工夫や表現方法には年々磨きがかかり、グラフアートを通じて、生徒の興味関心を広げる機会にもなっていると感じています。
「マカロンタワー」円・楕円の方程式を用いず、曲率を調整して作成された「マカロンタワー」
村山先生

村山先生

数学で「問題を解く」だけでなく、「表現する」「創る」といった機会があると、生徒も数学の学習を楽しみながら取り組むことができそうですね。
長岡先生

長岡先生

はい。「関数を学ぶ」のではなく「関数を使う」ことで、より実感を伴った学びになっていると思います。この取り組みを通じて、数学が苦手な生徒でも「数学って面白い」と感じるきっかけになれば嬉しいですね。
村山先生

村山先生

長岡先生、お時間をいただきありがとうございました。
読者の方の中には、同じ学校にいる他教科の先生の取り組みについてイマイチ詳しく知らない・意識して考えたことがない、という方も多いかもしれません。本校では、校内の先生方がどのような実践を行なっているのか、「知る」機会として、月一の職員会議内で、ICT利活用事例の紹介をしています。これについては、次回のコラム(最終回)にて記事にできればと考えております。

本校では、様々な教科でICTを活用した取り組みがありますが、今回は、数学科で長らく取り組んでいる「関数グラフアート」の事例をご紹介しました。ICT利活用を通じて生徒の学びがより深まったり、効果的になったりする場面では、率先して活用していきたいものです。

今回も最後までご覧下さりどうもありがとうございました。
次のコラムも宜しくお願い致します。