連載コラム 進化を続けるICT利活用の成功校 田園調布学園の実際 -ICT教育の取り組み- Chromebook の活用 

第15回
ICT利活用の軌跡とこれから 〜連載の締めくくりに〜

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本コラムもいよいよ最終回を迎えることとなりました。第1回のご挨拶に始まり、Chromebook の導入、管理、運用、行事での活用、そして異校種との接続に至るまで、多岐にわたるテーマを取り上げてきました。本稿では、これまでの連載を総括し、特にコロナ禍を契機として変わったことや、新たに始まったことを、事例をもとにご紹介するとともに、ICTを活用する上で重要な視点について小杉と振り返りたいと思います。

コロナショックがもたらした学校内の変化

小杉先生

小杉先生

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の感染拡大によって、学校内も大きく変化しましたね。
村山先生

村山先生

全国的に見ても、学校現場でのICT活用が一気に加速する大きな転機となりましたよね。本校でもオンライン授業の導入が急務となり、当時の安倍首相が一斉休校宣言を発表した日(金曜日)の翌月曜日から、オンデマンド配信やオンラインを通じた生徒への情報発信が始まりました。それから約5年が経とうとしていますが、今回はコロナショックをきっかけに始まり、現在も継続している取り組みについて、いくつかご紹介していきたいと思います。少しでも読者の先生方の参考になるものがありましたら幸いです。

オンライン授業対応(Webカメラの全教室配備)

小杉先生

小杉先生

一斉休校、分散登校と、徐々に対面授業が再開していく中で、在宅の生徒も登校している生徒も同じスタイルで授業を受けられるようにするため、全教室分のWebカメラを購入しました。あの頃はWebカメラの価格が今の3倍ほどに高騰していたうえ、どこのお店やオンラインショップも在庫が枯渇していて、入手するのにとても苦労しましたね。インターネット上で在庫を見つけては購入し、部員みんなで協力してかき集めたのが、今となっては良い思い出です。
村山先生

村山先生

学校によってはPCのインカメラを黒板の方に向けて撮影・配信していたこともあったかもしれませんが、授業で板書している様子を配信するには、PCを遠くに置くと操作がしづらいという問題がありましたよね。そのため、Webカメラを離れた位置に設置できるようにしようと考え、校内からカメラ三脚をかき集めました。それでも足りなかったので、理科室から実験用のスタンドも持ち出して対応したのが懐かしいですね。
Webカメラ配備各教室を回ってWebカメラを装着した三脚を配備している様子
小杉先生

小杉先生

本校では現在も、全教室にスタンドとWebカメラをセットで設置し、いつでも教室から配信できる環境を整えています。コロナ禍直後はカメラ用の三脚を使用していましたが、現在は軽量の照明用スタンド(これが安価で使いやすいです)を活用しています。これにより、教室内の通路に立てても邪魔にならないよう工夫しています。
Webカメラスタンド教室の隅に置いているWebカメラスタンド(黒板から距離を確保するため、USBの延長ケーブル2mも接続)
村山先生

村山先生

昔は台風や大雪で警報が発令されると、「○時時点で解除されていなければ休校」といった対応でしたよね。でも、オンラインツールが普及した現在では、どんな状況でも即座にオンライン授業が実施できるようになりました。だから、今の生徒たちは「授業がなくなるかも!」という期待(?)を抱くことが、もうなくなったんじゃないでしょうか。
小杉先生

小杉先生

学びが止まらないという意味では、素晴らしいことですけどね(笑)。
村山先生

村山先生

実際、コロナ禍のときも当初予定していたシラバス通りに授業を進めることができましたよね。現在でも、大雨が予想される際には、事前に「明日はオンライン授業を実施します」とアナウンスすることもあれば、従来通りの判断で警報が解除されなくても生徒が自宅から授業を受けられるようにするなど、柔軟な対応ができるようになりました。

また、本人は元気でも濃厚接触者となって自宅待機しなければならない場合や、やむを得ない事情がある場合には、本校では一定の条件のもとで、放課後に実施される受験向けの補習授業を、対面ではなく配信で自宅受講することも可能になっています。
小杉先生

小杉先生

PCのインカメラも便利ですが、こうしたスタンドとWebカメラを各教室に1台ずつ設置しておくと、さらに使いやすくなりますね。

マルチカメラによるLive配信

村山先生

村山先生

緊急事態宣言が発令されるまで、本校ではライブ配信を行った経験はありませんでした。しかし、人数制限を考慮し、学校にある機材を活用して、卒業式をリアルとオンラインのハイブリッド形式で実施しました。
小杉先生

小杉先生

当時は配信用のスイッチャーなどが構内になく、HDMI切り替え機を駆使して何とかマルチカメラで対応しましたね。今では少しずつ本格的な機材を揃え、入学式・卒業式はもちろん、音楽会や体育祭などでもライブ配信を活用しています。特に入学式や卒業式、体育祭では4台から5台のカメラを切り替えて使用することが多いですね。体育祭は暑い時期に一日中配信を行うので、機材の熱対策にも気を使っています……(苦笑)。
村山先生

村山先生

ライブ配信については、業者に依頼する学校も多いと思いますが、本校では配信だけでなく、入試広報のチラシやリーフレット(パンフレット除く)なども内製化しています。これは、学校をよく知る教職員や生徒が関わることで、より想いが伝わると感じているからです。確かに手間は増えますが、教員が生徒の表情を的確に捉え、より魅力的な発信ができるのは大きなメリットに思います。
マルチカメラ式典(初期のころ)緊急事態宣言直後の卒業式での様子

ICTまとめサイト

村山先生

村山先生

コロナショックによって、教職員の先生方は、新しくオンライン会議ツールやライブ配信ツールを導入し、様々な対応を迫られました。学校内であればICT担当者が直接教職員に周知できますが、在宅勤務ではそのようなことができない上、同じような質問を複数の方から問い合わせを受けることがありました。

そこで、これまでのマニュアルや、新しく使い始めるツールの使い方について、情報を1箇所にまとめ、「ここを見れば解決できる」サイトを作ることにしました。それが「ICTまとめサイト」です。このサイトは Google サイトを利用しているので、誰でも簡単に作成・編集ができます。
小杉先生

小杉先生

今では頻繁に利用する教職員は少なくなりましたが、当時はかなり活用されていましたよね。
村山先生

村山先生

内容としては、オンライン授業ツール、プロジェクターの操作設定、タブレット端末の使用方法など、多岐にわたる情報をボタンメニューから選べるようにしています。サイトに掲載している資料の一部を紹介します。後ほど紹介する「ICTかわらばん」のアーカイブもここに掲載しています。
ICTまとめサイト1
ICTまとめサイト2Google サイトを利用した「ICTまとめサイト」
小杉先生

小杉先生

問い合わせ対応で苦労している方は、同様の質問や対応方法を1箇所にまとめ、Google サイトなどで共有すると便利ですよね。

ICTかわらばん(ICT利活用実践事例)

村山先生

村山先生

これについては前回のコラムでも少しお話ししましたが、校内の先生方がどのようにICTを活用しているのかを共有する機会として、「ICTかわらばん」というものを部署で作成しています。「ICTかわらばん」では、ICTに関する先生方にとって有益なトピックや、ICT活用事例を紹介しており、職員会議ごとに発信している資料となっています。
小杉先生

小杉先生

このスタイルを取る以前からも、職員会議ではフリーフォーマットの形で、各教科が順番に毎月簡単な発表を持ち回りで行っていました。しかし、校内での事例を蓄積していく意味でも、記録として残る形で先生方に情報発信できればと思い、この方法を取り入れました。
村山先生

村山先生

教科ごとの活用事例については、直接的に自身の教科で活用できない場合もあるかもしれません。しかし、他教科での実践をヒントに、自分の教科や校務に応用するケースもあります。まとまった時間を確保して行う研修が重要な場面もありますが、このようなこまめで定期的な情報発信も有効だと感じています。他教科の取り組みを知ることは、新たな発想や工夫につながるため、とても大切だと考えています。
ICTかわらばんICTかわらばんのアーカイブ(ICTまとめサイトの画像スクリーンショット)かわらばんの左部をトピック、右側を実践事例 の形で掲載

コロナ禍を経てICT環境が大きく変化したように、今後も新たな技術が登場し、教育現場での活用が求められる場面はますます増えていくことと思います。そうした変化を前向きに受け止め、柔軟に適応しながら、わくわくする気持ちを持ち続けたいものです。

本校では、最近の取り組みとして、生成AIの活用を進めており、2025年度より本格的に始動する予定です。 これからも、技術の進化に対応しながら、生徒たちにとってより良い学びの環境を整えていきたいと考えています。

さいごに…。

本コラムのタイトルにある「成功校」という名称は、ミカサ商事様にお付けいただいたものです。当初は「成功校」と名付けていただくには恐れ多く、別のタイトルを希望しました。しかし、ミカサ商事様とお話を重ねる中で、特段、特別な取り組みをしているわけではなくとも、学校全体でICTを日常的に活用し、生徒はもちろん教職員まで一人残らず利活用できていることこそが、「ICTを活用することができている学校」、すなわち「成功校」と言えるのではないかと考えるようになりました。

教員の中でICT活用に対する温度差は多少あるものの、誰一人取り残さずにICTの利活用を推進し、段階的にステップアップしていくことは、視察に来校されるさまざまな学校の先生方とお話をする中でも、重要な点だと感じています。

この連載でご紹介した内容や事例は、あくまで本校における一例に過ぎず、より高度なICT活用を実践されている学校も多くあります。とはいえ、その中でも本校が伝えられることとしては、多くの学校がスモールステップで端末の導入を進める中(2018年当時)、本校では3学年一斉に約700台を導入しました。導入当初、全国的に見ても前例がないようなさまざまなトラブルや課題に直面し、大変な苦労がありましたが、こうした場面で大切なのは、トラブルが発生した際にご尽力いただける納品・導入企業様の支えです。その際には、本サイトを運営されているミカサ商事様にも大変お世話になり、大変な事態も踏ん張ることができました。

現在では、全国的にも Chromebook が普及し、各学校で安定的な運用がなされるようになり、大きなトラブルが発生することは少なくなったかと思います。しかし、安定したICT環境を構築・運用するうえで、困ったときには親身に対応してくださる信頼できるパートナー企業の存在が非常に大きなものです。

この連載コラムでは、試行錯誤を重ねながらここまで取り組んできた背景には、どのような工夫や意識があったのか、その一端が、読者の皆様の参考になればとの思いで、これまで執筆を続けてまいりました。

これまでご支援いただいたミカサ商事様をはじめ、導入前に視察を受け入れてくださった学校の皆様、本校に視察にお越しいただき情報交換をしてくださった学校の皆様、そして本コラムをお読みいただいた皆様に、心より感謝申し上げます。

本コラムではお伝えしきれなかったこともまだまだ多くありますが、何かございましたら、下記フォームよりお気軽にご連絡いただければ幸いです。また、本校への視察をご希望の学校様がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

フォームURL:https://forms.gle/FyE6dRA8Hvauvm1a6

改めまして、これまで本連載をご愛読いただき、誠にありがとうございました。

田園調布学園中等部・高等部
ICT教育推進部 村山達哉・小杉政史