連載コラム 進化を続けるICT利活用の成功校 田園調布学園の実際 -ICT教育の取り組み- Chromebook の活用 

第2回 
Chromebook を導入するまで・Chromebook を選択した理由

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皆さんこんにちは、田園調布学園の村山です。
少し間が空いてしまいましたが、この間本校では2大行事である「なでしこ祭(文化祭)」・「体育祭」を終えました。生徒においては、部活動や委員会で代交代を行い、早速新学年による活動がスタートしています。

さて、第2回目のコラム本題ですが、今回は本校における「Chromebook を導入するまで・Chromebook を選択した理由」についてご紹介します。少しでも本コラムをご覧いただいた方の、参考になりますと幸いです。

Chromebook を導入するまで

本校では、2018年に Chromebook を一人一台導入しましたが、それ以前は将来的に生徒が一人一台タブレット端末を所持することを見据えて、2014年から校内貸出用 iPad を運用していました。生徒への貸し出しはもちろん、教員に対しても校務で使用するパソコンとは別に iPad を貸与して、各教科で端末を利用した効果的な活用・検証を重ねていきました。

校内貸出用の iPad は徐々に台数を増やしていき、最終的(2017年頃)には2クラス分(約100台弱→充電カート2台分)まで整備を行いました。その頃には、校内においてもタブレット端末を用いた授業実践ノウハウが蓄積され,各教科が授業で端末を利用するために、iPad 充電カートの取り合いが起こるくらいにまで使用頻度が高くなっていました。

私自身は2017年に入職をしましたが、校内で「『iPad』を生徒に所持させる動き」の話を受けて、生徒が一人一台タブレット端末を日常的に活用するにあたっては、できれば「(取り外しのできない)物理キーボードが装備されていて、日頃生徒が使用するスマートフォン端末とは扱いが少し異なった(一般的なパソコンに近い)使い方ができるもの」が望ましいと考え、校内に「Chromebook」を提案しました。

実際に2016~17年頃までは、学校において中高校生が日常的に使用できる端末といえば「iPad」がメジャーであり、iPad を導入している私立学校も少しずつ増えていたところではありましたが、個人的には前述の「生徒が日常的に端末を活用するにあたって望ましいと思う点」について次のような考えから、校内での iPad 導入の動きを Chromebook に切り替えるまでに至りました。

  
English②English③校内貸出用 iPad で授業を行っていた頃の授業風景

Chromebook を選択した理由

Chromebook を選択した背景には、価格面や端末管理のしやすさなど、様々な観点が挙げられますが、そのような項目以外に、個人的に想いを強く持っていた点を以下に2点ほど挙げてみました。

・物理キーボードが装備されている
今日では情報技術の進展により、音声入力の技術なども発達しているため、そのような文字入力の方法も可能ではありますが、これからの社会においても、大学でのノートテイクや資料・論文等の作成、CBT 方式での試験、プログラミング等々、キーボード入力の伴う作業はこれからも様々な場面で必要と考えられます。
導入検討をしていた当時は、iPad などのタブレット端末に装着する外付けキーボードのバリエーションもそこまで多くないことや、キーボード入力に慣れていない段階でキーボードに煩わしさを感じる生徒は、外付けキーボードを外してソフトウェアキーボード(画面に表示されるキーボード)での入力や、場合によっては日常のスマホで慣れている「フリック入力」に切り替えるなどキーボードを使わなくなる可能性も考えられるため、「物理キーボードが装着されている(キーボードの取り外しのできない)端末」が望ましいと考えていました。
※この考えは、2021年度より実施している本校の高等部生を対象にした「BYOD(Bring Your Own Device)」の運用ルールにも生かされています。

以下、私自身の個人的な話になりますが、はじめて自分のパソコンを手に入れた(日常的に使用するようになった)のは高校1年生の時でした。それまでは、あまりキーボード入力をする機会などはなく、「なんとなく」でしかキー配列を認識していませんでした。(私自身、幼少期からピアノを弾いていたこともあり、指を動かすこと自体、特段苦労や抵抗はありませんでした。ピアノが関係あるかはわかりませんが…苦笑)
パソコンを手に入れたきっかけとしては、高校生の時に「情報処理」・「プログラミング」といった情報に関する専門科目があり、「少しでもキーボードを早く打てるようになりたい」、「授業で習った Word や Excel を家でも復習して、難なく使いこなせるようになりたい!」という思いからでした。キーボード操作にいち早く慣れるには、学校に設置されているノートパソコンと同じものが良いと考え、学校に設置してあるパソコンと全く同じ型式のモデルを中古で購入し、日々練習をしていました。もちろん当時は、生徒が GIGA 端末のような個人端末を学校に持ち込むといった習慣もなければ、日常的に様々な科目で端末を活用することもなかったので、私自身を振り返ってみれば、高校時代にこのような経験をしていなければ、大学生や社会人になってから苦労をしたのではないか…?(今の自分自身のように自信をもって機器を活用できていなかったかもしれない)と思うことがあります。

このような自分自身の実体験・経験もあり、いきなり導入初年度から高価な Windows や Mac などのノートパソコンを各家庭にご負担頂くことはできなくても、「そのような端末(Windows や Mac など)に近い使い方をできる端末」を中高校生時代の段階から日常的に使用することによって、学園の生徒たちも私自身のように自信を持って大学・社会に出ていくことが出来るのではないか、という想いも、Chromebook を選択した理由の一つとして挙げられます。

English②English③
CALL 教室で多聴多読行っていた頃の授業風景

・スマートフォン端末とは少しタイプが異なった使い方ができるもの
今の中高校生は、大多数が個人のスマートフォンを所持している状況にあり、端末にアプリをインストールすることで、多様な作業を行うことを理解していると思います。ここのタイトルにおける内容の例としては、日頃 iPhone を使用している生徒が個人のスマートフォンとは別に iPad を所持するとなった場合、扱える内容(アプリケーション)は基本的には同様であり、二つを比較すると「画面が大きく見やすい(作業・操作がしやすい)」・「タブレットペンで書き込みやすい」といった形で、基本的な端末で「出来ること」・「使い方」に大きな違いはないように思います。
(もちろん私的な利用と学校での学習ツールとしての端末では、アプリ・インターネット接続の制限度合いなど、ご家庭のルールによって、「個人スマホ」と「学校で使用する端末」の設定内容などには多々異なる点もあることかとは思いますが…)
以下内容は、やや極端な話にはなりますが、もしiPhone ユーザーの生徒が追加で iPad を所持するとなれば、端末で「できること」が iPhone とあまり遜色ないため、今日スマートフォンも BYOD で可としている学校のように、「ご家庭でご利用のスマートフォンで OK です」という運用でも良いように思ってしまいます。
これは考え方の話にはなりますが、個人端末を持ち込むと、SNS ツールなどがすでにインストールされていることも考えられるため、「学校で使用する(学園生活をより良くするための)ツール」と「各家庭でプライベートに使用できるツール」をはっきり分けることで、心や気持ちの切り替えるきっかけにもなるように思います。
※本校では、個人携帯電話の取り扱いについて、東日本大震災以降から携帯電話の校内持ち込みは可能・緊急時以外原則使用不可としています。

以上のようなことからも、物理キーボードを装備していて、かつ、日頃プライベートで使用しているスマートフォンなどの端末とは少し違ったタイプ(パソコンに近い使い方ができるもの)ということで Chromebook は、まさに「理想の端末」でした。

※決して iPad (タブレット端末)がダメという話ではありません。あくまで本校が Chromebook に至った経緯を、このコラムのメインタイトルにある「実際」として、お話しさせて頂いております。余談ですが、村山自身 Apple 製品は好きで、スマホも PC もApple ユーザーです。本校も生徒は Chromebook を使いつつ、目的に応じて貸出用の iPad を利用するなど、「使い分け」を行っています。

冒頭でも申し上げました通り、このほかにも(当時の iPad のMDM 管理と比較すると)「端末の管理が行いやすい」、「価格が手頃」といった観点も Chromebook を選んだ理由としては大きかったです。また、2017年の当時に、スモールステップではなく、3学年を対象に端末一斉導入を決断できた要素としては、Chromebook に「タッチパネルモデルが登場した」・「Android アプリが使えるようになった」ということも挙げられます。(今となっては当たり前のような話ですが…)これによって、これまではブラウザ表示が主だった Chromebook の可能性が、大いに広がり、「授業はもちろん授業外の利用場面を含めた学園生活全体を通して Chromebook を活用していけるだろう」と確信につながりました。

こうして、「Google 本社に行けますよ^^ 一緒に行きませんか?」というお誘いで同部署の小杉さんを誘い、2017年6月9日 六本木の Google 本社で開かれたミカサ商事主催の Google for Education セミナーに参加して、その場で契約のための申し込みを行いました。そのままの勢いで、夏休みには小杉さんと二人で管理コンソール等に関する説明を受け、校内にて念願の「Google for Education」が使える状態に至りました。(もちろんここに至るまでの過程で、ICT 部署[当時は情報環境整備室]内や、管理職への理解を得るための働きかけなども必死に行いました)
ここから半年少々かけて、まずは教職員をメインに Google for Education や Chromebook の利活用について浸透をはかる普及活動を始めていきます。

Chromebook を導入するまでの具体的な校内の様子や、Google のサービスを校内に導入してから生徒が一人一台端末を所持する2018年4月までの間に、教職員・生徒に向けて、どのようなことを行ったかについて、次回「生徒が一人一台端末を所持するまでの1年間に行ったこと」というタイトルで小杉さんとトーク形式でお届けしたいと思います。

長くなりましたが、今回の内容も最後までご覧くださりどうもありがとうございました!

プロフィール

村山 達哉

村山 達哉(むらやま たつや)

田園調布学園中等部・高等部/ICT教育推進部長・情報科教諭
高等部1・2年の情報科の授業を担当。校内ではICT教育推進部の部長として校内のICT環境整備やICT教育の推進を担当。2017年度に Google for Education を校内に導入、2018年度には中等部2年~高等部1年の3学年を対象に Chromebook を一人一台一斉導入。現在では中等部1年~高等部3年までの全校生徒が一人一台 Chromebook を所持。一人一台環境4年目となる2021年度より高等部生以上でBYOD(端末の自由化)を実施。教員免許は情報科・技術科・商業科を所持。「情報」や「探究」の教材で執筆協力にも携わっている。
小杉 政史

小杉 政史(こすぎ まさふみ)

田園調布学園中等部・高等部/ICT教育推進部・事務
2010年10月より勤務。機械工学科出身という事もあり、校内の機器運用を中心に業務を行っている。2017年度からICT教育推進部のメンバーである。「分かりやすくシンプルに」をモットーに機器やマニュアルなどの運用・設計を行う。