連載コラム 進化を続けるICT利活用の成功校 田園調布学園の実際 -ICT教育の取り組み- Chromebook の活用 

第8回
小学校時代の利用デバイスによって、児童・生徒のアウトプット量に差異が生じる?

第8回 小学校時代の利用デバイスによって、児童・生徒のアウトプット量に差異が生じる?
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皆さまこんにちは、村山です。
今回もコラムをご覧くださり、どうもありがとうございます。

さて、前回のコラムでは「タイピングスキルの習得」をテーマにお話ししましたが、今回も前回に引き続きタイピングに関する話をしたいと思います。

前回のコラムの最後には、「入学直後の生徒がタイピングをすれば、出身小学校の市区町村がわかる?」という、ややインパクトのある見出しをつけましたが 、市区町村名までは分からずとも、入学直後の生徒を見ていると、どのような端末を利用してきたか、ある程度想像することができる?といった話です。

自治体によって異なるGIGA端末


本校は、中高一貫校のため付属の小学校が存在しません。本校(所在地:東京都世田谷区)の中等部に入学する生徒のうち、通学生徒数の割合が比較的多い区域としては、都内では世田谷区、大田区、目黒区エリア、神奈川県では、横浜市、川崎市などの市区町村です。私立小学校出身の生徒もおりますが、割合としては公立小学校出身者が多いので、多くの生徒は自治体が選定した端末を小学校時代に利用して本校に入学することになります。

多くの公立小学校は GIGA スクール構想によって、コロナショックのあたりから端末を導入して使い始めていることと思います。GIGA スクール構想に向けて教育機関が導入するべき端末 OS として、文部科学省は「Microsoft Windows」・「Google ChromeOS」・「iPadOS」を挙げており、提示された要件・仕様を満たすものを各自治体ごとに選定されています。ご興味のある方は、Webで「〇〇区 GIGAスクール」などと検索すると、お近くの自治体が選定している端末や、端末選定の考え方について確認をすることができます。

GIGAスクール構想で使用する端末は何がいい?OS別の端末比較

隣接する校種での「ICTを活用した学び」を知る大切さ

私自身は、中・高の教員をしているのでその目線で書かせて頂きますが、(先日、本校に視察来校された学校の先生方ともこの話をしましたが)中・高の先生方は是非、「今の小学校」では、端末を活用してどのようなことが行われているのか、実際に小学校に足を運び見学をさせてもらったり、Webで色々と調べたりしてみると良いように思います。私自身も今の小学生はどのような学びをしているのか、端末を利用してどのようなことが出来るのか、公立・私立を問わず実際に児童の活動の様子を積極的に見学・勉強をさせて頂いております。なかなか日々の業務で忙しくしていると、そのような校外に出て足を運ぶ時間を取りづらいかとも思いますが、新聞やテレビを見ると、小学校から中学校に進学した際に、「小学校ではICTを活用した学びが頻繁に行われていたのに、中学校ではそのような活動がほとんど行われていなくてがっかりしている」といった中学生の声を度々見かけることがあります。これまで(コロナショック以前)であれば、多くの生徒は中学校に上がった段階で、初めて個人のタブレット端末を手にするため、先生方の中には端末を用いて授業をしてみたいけれど「授業の中で機器操作の説明や生徒対応に時間を割かなければならないのではないか」と億劫な気持ちになられていた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、今となれば小学校時代にある程度タブレット端末を用いた学びが行われているので、(GIGA世代の生徒たちはそのような学びになれている・寧ろ求めていると思うので)学校生活はもちろんのこと、教科における生徒の学習活動の場面においても「教科での学び」が「より効果的に」なる使い方は積極的に行いたいものです。

また、小学校の先生方も中・高での端末活用や教科での学びをご覧になられると参考になる部分は多分にあるかと思います。校種が異なれば学習内容の難易度も、もちろん変わってはきますが、小学校での教科の学びにおいても十分活かせるものが多いように思います。

自由記述入力でわかる?iPad/Chromebook 利用経験者の違い


第6回のコラムでも取り上げましたが、入学直後の技術・家庭科の授業にて、小学校時代の端末利用経験を(あえて)自由記述で Google Forms に入力回答してもらっています。入学直後の中等部1年生は、思うがままに自身の経験を Google Forms で教えてくれるのですが、Google Forms の回答結果をスプレッドシートで一覧表示してみると、入力されたテキストの文量に大きな差を感じます。(小学校の中だけでは、皆が同じ端末を使って学校生活を送っていると思いますので、なかなか利用している端末による違いを感じる機会はないかと思いますが…)

各ご家庭内での端末利用経験による得意不得意など、キーボード操作に対する慣れの度合いもありますが、小学生の時に Chromebook で慣れている多くの生徒は、ある程度の文章量を打ち込みます(タイピングに対する抵抗が少ない?)が、iPadなどで過ごしてきた生徒は、簡単に1~2文程度といった記述が多く見受けられ、第6回のコラムでご紹介した授業後の振り返り記述の中には「タイピングが難しかった」と書いている生徒も多くおりました。

タイピング入力の速さは、タイピング入力時の指の動き(速さ)だけではなく、語彙力や表現力、集中力や持続力など、様々な能力が複合的に関係している結果とは思いますが、このような生徒の様子を見ていると「物理キーボードか、取り外し可能な外付けの簡易キーボード」かが、アウトプット量に大きく繋がっているようにも考えられます。

はじめてログインをしている様子
Chromebook を受け取り開梱後はじめてログインをしている様子(中等部1年生)

「速く打てるに越したことはない! -キーボードの必要性-」


学校生活において児童・生徒たちは、授業やホームルーム、委員会など、限られた時間の中で自分の考えや意見をアウトプットする場面が多々あるかと思います。同じ限られた時間の中でも、速く文字を入力できた方が、自分の考えや主張をより多く入力・記述して表現することができます。 近年では、音声入力や文字認識の技術も発達しているので、タイピング以外にも文字を入力してテキスト化する方法は様々に考えられますが、そのような技術が発達してもなお、タイピング入力は「大学でノートをとる」、「社会人になって仕事をする」、「プログラミングをする」、「CBT 方式の試験を受ける」ときなど、まだまだこの先もあらゆる場面で必要となるスキルであると考えられます。

実際に「中等部生の頃から、画面と物理キーボードが一体となったデバイス(Chromebook)に慣れていて良かった!」とGIGA世代以前の多くの卒業生も口にしています。第2回のコラムでもお話ししましたが、もしタブレット端末に外付けキーボードの組み合わせで運用した場合、キーボード入力に慣れていないと(フリック入力と比較して)、キーボード入力に煩わしさを感じて、外付けキーボードを外してソフトウェアキーボード(画面に表示されるキーボード)で入力をしたり、場合によっては日常のスマホで慣れている「フリック入力」に切り替えたりするなど、物理キーボードを使わなくなる可能性も考えられます。そのようなことから、現状本校では、まずは中等部での3年間は最低限全員が物理キーボードタイプの Chromebook を使用して機器操作になれたうえで、高等部生以上を対象に実施している「BYOD(Bring Your Own Device)」では(端末〔OS〕の制限はないものの)物理的なキーボードはマストとしています。

タイピングに向き合う機会として…「タイピングコンテスト」の開催


本校では年に3〜4回、全校生徒を対象にICT教育推進部主催のタイピングコンテストを開催しています。目的としては、生徒自身が自己の入力速度を定期的に知る(変化を見る)機会として、学校側(部署としては)が生徒の現段階のタイピングスキルを把握する機会として行っています。そして上位者には、校内掲示の上、賞状(景品がある場合もある)を授与しています。

参加方法は、外部のタイピングサイトで5分間入力し、結果画面(入力文字数やミスタイプ・速度等が表示される)をスクリーンショットで撮影して、画像を応募用のフォームに添付の上、送信してもらっています。「キーボード入力」は単なる一つのスキルにしか過ぎませんが、生徒が大学生、社会人となった時に不自由なく自己表現ができるようになってもらいたく、タイピングコンテストも、日ごろのキーボード入力を見つめ直す一つのきっかけになればと思っています。
タイピングコンテストの結果
タイピングコンテストの結果を校内に掲示している様子(2023年秋頃)
今回も最後までご覧くださりどうもありがとうございました!
次回のコラムでは、GIGA世代の小学生が実際にどのように端末を活用しているのか、小学校の校長先生にお話を伺います。

今回もコラムをご覧下さりどうもありがとうございました。
また次回のコラムも宜しくお願い致します。